それでも、失敗やつらいことはあった。「パウチの接着面がはがれそうになって慌てたり、トイレで処理に手間取っていたら、何度もドアをノックされて泣きたくなったりしたこともあります」
困った時には、ネットでオストメイト(ストーマを設けている人)の体験記を見て情報収集した。患者情報は日常生活に役立つだけでなく、「こういう思いをしているのは自分だけじゃないんだ」という心の支えにもなった。
仕事に復帰して頑張れたのは、オストメイトでありながら、俳優として活躍する渡哲也さんの姿に励まされたからでもある。
「以前と変わらずドラマにCMにと出演されているのを拝見して、とても勇気づけられました」と当時を振り返る。
激しい動きがあるような番組は控えたが、大抵の仕事は引き受け、工夫で乗りきるようにした。生放送の前には、おならが出やすいゴボウなど繊維質の多い食物、キムチなどにおいの強い食品は避け、消化のよい食事をした。便のサイクルを整えるため、規則正しい生活を心がけた。
◇
誰かのために役立てたい
仕事では、周囲の支援に助けられた。一部のスタッフや共演者には事実を伝え、協力してもらった。
旅番組の撮影では、女優の野際陽子さんが折に触れ、「お手洗いの時間を取りましょう」などと気を配ってくれた。スタイリストには、おなかを締め付けない衣装選びをしてもらった。
2003年夏にはパリ世界陸上の報道番組(TBS)で、俳優の織田裕二さんとキャスターを務めた。2週間の現地ロケも敢行。海外出張には不安もあった。万一の時、ストーマのことを自分で説明する自信がなく、主治医に英語の説明文書を作ってもらった。
ストーマを作って1年後、大腸をつなぐ手術を受けて回復した。過去には、子宮筋腫を摘出する 腹腔ふくくう 鏡手術を受けたこともある。最近は胆石が悩みの種だ。病気を経験し、患者の気持ちがわかるだけに、医療関係の研修や学会で講師を頼まれる機会も多い。
3月は大腸がん啓発月間。5日には「ブルーリボンキャラバン もっと知ってほしい大腸がんのこと」( http://www.cancernet.jp/19699 )で司会を務める。「私が他の人に勇気づけられたように、私も自分の体験を誰かのために役立てられたら」。今後も、自分なりの患者支援を続けたい。
0コメント