骨盤の金属プレートなどを組み直す手術は2017年5月16日、無事成功した。新しい骨ができ始め、約1か月後、松葉づえなしで歩けるようになった。「当たり前だったことが少しずつできるようになった喜びを忘れずにいたい」
復帰した時、前より成長していないと意味がない。トレーニングは体幹を意識し、質のいい筋肉づくりに取り組んだ。派手だが無駄な動きも多かった騎乗フォームは、馬の動きに同調した乗り方に変わった。7月上旬、久しぶりにまたがった馬の背中は懐かしかった。体は勝手に反応してくれた。
1年ぶりの復帰を果たしたのは8月12日。あの日と同じ札幌競馬場(札幌市)を選んだ。自分への「けじめ」だった。
「皇成、おかえり!」。雨の中、パドックで声援が飛ぶと、耐え抜いた日々を思い返し、熱いものがこみ上げた。復帰戦は妻のほしのあきさんが心配そうに見守るなか、5着で終えた。「次は勝ちたい」。自然と湧き上がった思いに、「俺、やっぱり騎手なんだなって実感した」という。
「誰もできない経験をした。これで変われなかったら、頑張った自分に申し訳ない」
騎手は、死ぬ可能性があることを思い知らされた。手術は5回にも及んだ。体にはまだ14本のボルトが入る。だが怖さはない。騎手という仕事に誇りを持てた。トップジョッキーになる――。その覚悟と自信を胸に人馬一体となって、ターフを駆け抜ける。
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