NHK『バリバラ』に存在意義を否定された日テレ『24時間テレビ』、マラソンより注目すべきシーンとは
今年の『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)は異質なムードに包まれている。8月26日の放送日が近づくとともに、メインパーソナリティーを務める櫻井翔、亀梨和也、小山慶一郎、さらに総合司会を務める羽鳥慎一、水卜麻美の番宣出演が増えているが、ビッグイベントに向かう盛り上がりや熱気は感じられない。
理由として考えられるのは、メインパーソナリティーがジャニーズの単独グループではなく、必然性の低い3人組であること。単独グループのような息の合ったトークがなく、大人数でにぎやかすこともできず、番宣出演でもどこか淡泊に見えてしまう。
しかし、それ以上に盛り上がりをそいでいるのが、チャリティーマラソンランナーの当日発表だ。「当日、日本武道館にいて、走る理由のある人」という思わせぶりな情報だけを流すことでメディアの関心こそ集めているものの、肝心の視聴者レベルでは拒否反応を示す人が多い。
「あれこれ予想して楽しんでほしい」「当日のドキドキ感を味わってほしい」というインターネット上の“バズ狙い”なのはわかるが、現在の視聴者は自分たちを誘導するような事前演出には冷めがちだ。あくまで「自分たちでバズるネタを探したい」のであって、誘導するような仕掛けを好まないことに制作サイドは気づいていない。
そもそも、近年チャリティーマラソンへの関心は、「ヘトヘトになった芸能人のゴールシーンを見るか見ないか」という程度。「放送時間ギリギリで武道館へ向かう」という同じ演出を25年間も続けているのだから、年々感動の割合が減るのは当然だろう。
8月は芸能ニュースが少ないこともあってメディアはここぞとばかりに取り上げているが、視聴者サイドはほとんど反応していない。いわばメディアだけが制作サイドの術中にハマっている状況で、視聴者との温度差は広がる一方だ。
NHKとテレ東からイジられる『24時間テレビ』
そんなマンネリを軽減するためのチャリティーマラソンランナー当日発表なのだが、この仕掛けは「生放送という最大の強みを生かそう」という原点回帰ともいえる。
昨年、『24時間テレビ』が放送された時間帯に『バリバラ』(NHK Eテレ)が放送され、その内容が物議を醸した。「障害者の感動的な番組をどう思う?」という質問に、健常者は「好き45人、嫌い55人」、障害者は「好き10人、嫌い90人」と答えたアンケート結果を出すなど『24時間テレビ』のコンセプトをぶった斬り。『24時間テレビ』は、「お涙ちょうだいの感動ポルノなんていらない」という強烈なメッセージを叩きつけられてしまった。
さらに今年は、『24時間テレビ』と同じスタート時間の18時30分から『ゴッドタン 最初でたぶん最後のゴールデンスペシャル』(テレビ東京系)が放送。「キス我慢選手権」などの企画で「悪ふざけの最高峰」といわれる番組をわざわざぶつけられるなど、『24時間テレビ』はおもちゃのような扱いを受けているのだ。
NHKやテレビ東京にイジられるほど「愛は地球を救う」というコンセプトが揺らいでいるだけに、「生放送ならではの臨場感に賭けよう」というスタンスは合点がいく。
その象徴となるのは、阿久悠さんの未発表詞につんく♂が曲をつけ、24時間テレビ ドラマスペシャル『時代をつくった男 阿久悠物語』の放送直後に日本武道館でライブ披露するという企画。「亡き名作詞家の新曲であり、声を失ったプロデューサー兼歌手の新曲を初公開しよう」というのだ。
水卜麻美、渡部建、宮迫博之らが「練習している」と明かすなど走る意志を見せて盛り上げようとしているほか、メディアをにぎわせているのはマラソンの話題ばかりだが、生放送らしい臨場感なら、こちらのほうが興味深い。
収録に切り替えたフジ『27時間』を見据え
もともと『24時間テレビ』は、マラソンと武道館での歌以外は収録放送も多く、「生放送の臨場感」というより「台本通りの予定調和」と感じるコーナーもあり、「感動ポルノ」と呼ばれる原因をつくっていた。
その点、今年のテーマは「告白~勇気を出して伝えよう~」だけに、生放送でどれだけ多くの告白を見せられるかがポイントになるのではないか。感動、驚き、笑い……さまざまなバリエーションの生告白を見せられたら、「今年の『24時間テレビ』は良かった」という絶賛を集めるかもしれない。
今年の『24時間テレビ』が生放送の臨場感にこだわるのは、もうひとつの理由も存在する。かつて『24時間テレビ』に対抗して、徹底して笑いにこだわっていた『FNS27時間テレビ』(フジテレビ系)が今年は激変。「にほんのれきし」をテーマに収録放送するという路線変更に加え、『24時間テレビ』よりも後の9月9日に移動したのだ(昨年までは7月下旬に放送)。
さらに『27時間テレビ』は、生放送ならではの人気放談コーナー「さんま・中居の今夜も眠れない」も中止にするなど臨場感は失われる一方。制作サイドがライバルの動きを逆手に取って、「ならば、ウチは生放送らしい演出で仕掛けよう」と考えるのも自然に思える。
地方で支持される『24時間テレビ』の存在意義
いろいろ書いてきたが、最後に番組の存在意義について触れておきたい。夏のイベントが多く、在宅率の低い東京にいると気づきにくいが、地方ではいまだ『24時間テレビ』が人気を集めている。
「直接タレントと触れ合える」「子どもにチャリティーの意識を植えつけられる」「地元局がローカル番組をからめた関連イベントを開催して盛り上がる」などのメリットがあり、各地で親しみを持って受け入れられているのだ。
ちなみに『24時間テレビ』の放送日、東京では『第36回浅草サンバカーニバル』『原宿表参道元氣祭 スーパーよさこい2017』『第61回東京高円寺阿波おどり』『六本木ヒルズ盆踊り2017』『麻布十番納涼まつり』などの大規模なイベントが開催されている。つまり、「東京には『24時間テレビ』と同等以上に集客力の高いイベントがたくさんある」ということだ。
メディアやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)ユーザーに首都圏の人が多いため誤解されがちだが、日本全体で見れば『24時間テレビ』は番組以上にイベントとしての価値が高い。『バリバラ』のアンケートを踏まえると、地方の健常者ほど、その存在意義を強く感じているのかもしれない。
●木村隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』(フジテレビ系)、『TBSレビュー』(TBS系)などに出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。
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